龍のひげ’s blog

子供たちの未来のために日本を変革する

生きること、書くこと 69


私は不勉強で大変恥ずかしいことではあるが、そのような事実を知らなかったのである。担当者は、私の

会社情報や個人情報はまったく見ることなく電話というだけで不採用にしたのだと正直にカミングアウト

してくれた。それで話しが見えてくるとともに安心もした。1社目の担当者の口振りとも辻褄があうもの

である。電話のリース詐欺というのは契約についての詳しい説明もないままに高額のリースを組ませ、契

約期間中に新しい商品や電話会社の変更を勧めて残債を加えた契約更改をさせてゆくというものである。

リース会社と取次店は儲かるが、契約者は債務総額が知らない内にどんどんと膨れあがっていくことにな

る。女性担当者は、契約者が取次店とグルになって取込み詐欺を働くケースもあると言った。要するにこ

こ数年の間に電話会社間の過当競争で電話機のリースというものが非常に胡散臭いものになっているので

ある。

リース会社とすれば国内で商売をしてゆく上で、“お上”に目を付けられる事は何よりも恐ろしい。だか

ら取次店が適当な口車で取ってきた電話に関するリース契約を増やすことは、とてもリスキーなことと言

えるのである。数年後に、要するに契約の切換え時に社会問題として再浮上する可能性があるからであ

る。だからリース会社の経営判断とすれば当然の選択ではある。しかし、どうしてそのような事情を社内

規定などと言って秘匿しようとするのか。業界の恥部を隠しているだけじゃないかと腹も立ったが、正直

に話してくれたその女性担当者には感謝の言葉を述べて電話を切った。

それで電話工事会社の担当者にそれらの話しを報告した。担当者はリース詐欺の問題や電話のリースが組

み難くなっていることは自分たちの業界のことだから当然に知っていたが、それでも私の会社に問題があ

るかのような言い方をした。きちんと電話のリースが組めるケースも実際にある、それに信用調査会社は

全ての法人の経営状態を100点満点で評価した情報を保有していて、基準点以下の場合リース会社が断

るケースもあるようだなどと馬鹿げたことを言ったのである。それで私はほとほと呆れると同時に爆発し

た。

常識的に考えればわかりそうなものである。リース会社にとって電話は社会的な問題を孕んでいるにして

もまったく無しにするわけにはいかないだろう。そんなことをすればリース契約そのものの問題性が問わ

れることにもなりかねない。またこれまで一体何を審査してきたのだということになる。よって契約トラ

ブルが生じる可能性がほとんどないような取次店やユーザーをこれまでの実績から選んで体裁をつくろう

ことになるのではないだろうか。リース会社や信販会社にとって、“きちんと審査してます”という建前

は言わば命綱なのである。

それからリース会社が裏で信用調査会社のデータにアクセスするなら、最初からそれなりの情報(たとえ

ば決算書や試算表)の提供を要求するのが当たり前である。個人カードの審査ですら年収や持ち家か借家

かのような情報を書かせているではないか。そもそもリースなどというものは現金で買えば20万円のも

のが6年や7年の契約で総額40万円や50万円にまでなるのである。要するにリース会社や信販会社は

ぼろ儲けのシステムの上に胡坐をかいているのだから多少の貸し倒れがあったところで応えないのだ。貸

せば貸すほど儲かるのだから不必要に審査を厳しくしたり、裏で情報収集するなどということは基本的に

はあり得ないことだと思われる。

だが“お上”の指導だけは別である。経営環境が根本的に変わってしまうことになるのだから、“触らぬ

神に祟りなし”というか“虎の尾を踏まない”ような防衛本能が組織として働くのであろう。

もう一つ述べれば信用調査会社が全ての法人の経営情報を採点したデータを持っているなどということは

あり得ない。なぜなら私自身が過去に業界最王手のT社に調査を依頼したことがあるから、そのあたりの

事情はわかるのである。

たとえばAという会社を調べて欲しいとT社に依頼すれば、瞬時にコンピュータで過去の調査記録の有無

を調べる。そして3年前に調査した資料があるということがわかればそれを幾ばくかの金額で購入するこ

とになる。もしなければ新規の調査ということになり料金も高くなる。また調査になればスパイのように

A社の取引先や関連会社を嗅ぎ回るようなことをせずに直接A社に出向いて取材を申し込むのが常道であ

る。調査依頼がないほとんどの法人は年に1度、電話で売上の動向を聞く程度である。私の会社にも数社

がたまに電話で聞いてくるが忙しいといってまともに取り合った事はない。だから採点できるようなもの

ではあり得ないのだ。

私は、電話でその電話工事会社の担当を叱りつけてやった。その男は私を騙そうとしているのではなく単

にあまり賢くないだけなのである。自分が仕事をしている業界でありながら社会の中でどのように位置づ

けられていて、役所やリース会社からどのように評価されているのか今一よく見えていない。その男の携

帯電話の待ち受け画面には可愛らしい男の子の画像が貼られていたのを私は覚えていた。いかにも愛する

家族のために一生懸命、仕事をしていますという感じの若者だった。しかし世の中の建前と本音を見極め

た上で、貪欲に商売の交渉をしてくるような迫力に欠けていた。だから私はその男は決して出世出来ない

だろうと思った。本質が見えない人間は本質的にシステムの奴隷に過ぎない。多少の老婆心も交えて私

は、

「そもそもあんたらの業界が詐欺まがいのことばかりしているのが原因じゃないか。人のせいにするな

よ。もっと世の中の動きに敏感にならないと君のように鈍感な人間ばかりだと、君のその会社も明日には

どうなっているかわからなよ。」と言ってやった。

すると上司にでも言われたのであろうか、30分後ぐらいには私の会社にまで飛んできて平謝りした。私

は何で不愉快な思いをしてまで、よその会社の人間を教育しなければならないのかと思った。

その後、数日して電話回線のことを自分でよく調べて見た。すると私の会社の環境で言えば何も工事をし

て電話機を新しいものに交換しなくとも電話会社を変更さえすれば局内工事のみでナンバーディスプレー

代1800円も節約できることがわかった。通話料金もかなり安い。電話回線を光回線で統合してしまう

と回線の事故があったときに電話が使えなくなるので電話とインターネットは分けておいた方がよいこと

も判明した。何よりあの男が持参した見積もりをよく調べてみると、値引きを入れているとはいえ電話機

1台の単価が4万4千円もついているのである。私はリース会社の審査に軒並み落とされたことによっ

て、結果的に助かったのである。

こう言うのを何て言うんだっけ。

そう、「人間万事塞翁が馬」である。しかし世の中、油断も隙もない。

もしかすると、一番馬鹿なのは誰よりも私なのかも知れない。