大阪市立美術館 『プラド美術館展』にて
≪道化ディエゴ・デ・アセド、“エル・プリモ”≫
スペイン絵画の巨匠、ベラスケス(1599~1660)の絵は一見、とても地味だ。華美な装飾で独自の思想や
世界観を表現するものではない。天使やキリスト、マリアあるいは裸婦を好んで描く他の画家達に比べて
ベラスケスの絵は異色と言える。宮廷画家であり野心家の一面、内気で孤独好きな男であるとか、寡黙で
メランコリックな雰囲気を持っていたとも言われている。また「人間の価値は、美、富、力などにあるの
ではなく、より深遠な、より感動的な、そして悲しく悲劇的でさえある存在するという事実そのものにあ
る」と考えていたとも伝えられている。ベラスケスは彼が見た現実を誰よりも誠実に表現することに情熱
を注いだ画家であったといえるのではないだろうか。ベラスケスが描く道化“エル・プリモ”の目は憂い
に沈んでいて哲学的ですらある。その目はおそらくベラスケス自身の目であり、もしかすればその絵に見
入る私自身の目であるのかも知れない。
参考『プラドで見た夢』神吉敬三 中央公庫