龍のひげ’s blog

子供たちの未来のために日本を変革する

民主党の馬脚と末路

消費税率と社会保障の関係については、単純に他国と比較することは危険である。NHKニュース番組で、欧州では消費税20%が一般的だから、日本が今の財政難の状況で公共サービスのレベルを維持したいのであれば早急に消費税を引き上げるべきだと、外国人にコメントさせていた。
しかし日本の消費税を20%まで引き上げたとしても、社会保障や公共サービスは決して手厚くならないであろう。何故か?日本と欧州各国の基本的な違いは経済規模にあると思われる。日本は国土は小さいが、GDPはアメリカに次いで世界第二位である。社会保障の負担と受給の関係は、経済規模が小さいほどよりダイレクトで鮮明なものとなる。仮に関西の2府4県(大阪、京都、兵庫、奈良、和歌山、滋賀)の独立国家を想像していただくと分りやすいであろう。関西州で消費税を20%に設定すると、医療や教育、福祉などが充実した行政スタイルへと真っ直ぐに向かって行かざるを得ない。なぜなら、それぐらいの規模が市民の監視の目や要望の声が届きやすいし、ごまかしが効かないからである。経済規模の大小が政治の透明性を決定するのである。区画化された小さな経済が福祉の充実を促進させるのだ。そういう意味では、道州制の採用は一つの社会実験とはなるが大きなメリットが期待できると言えるであろう。因みにGDP世界一位のアメリカは各州ごとの小売、売上税はあるが、日本の消費税に相当するものはない。
ところが今の日本の行政システムにあっては、巨大な税収入を一旦中央に集中させてから地方に再配分する形式となっているので、どうしても利権に絡んだごまかしや誘導が横行することになってしまう。前回、書いたように消費税=社会保障のようなまやかしの論調で国民の目がくらまされてしまうことになるのである。日本は全体の経済規模の大きさに比べて、1人当たりのGDPは世界で20位ぐらいである。よって内容的には決して効率性が高くない税収を霞ヶ関の官僚たちが裏側から政治家やマスコミ、大企業と底流で結託して長年取り仕切ってきた。それらの強者保護の構造的なシステムにおけるしわ寄せの蓄積が弱者に、つまり地方の疲弊や末端の国民生活において自殺や一家離散、心中などの増加となって顕在化したのは当然の帰結であったと思われる。
そういった状況を打開するために、民主党は政治主導をモットーとして国民の負託を受け誕生した歴史的な権力奪取であったはずなのである。ところが鳩山と小沢がマスコミの情報操作でやられてしまったのを見た菅直人は、大企業やマスコミになびく“現実路線”の政治に早くも方向転換してしまった。官僚やマスコミ、財界をご主人様として怒らせないようにすることが政治の安定に、つまりは自らの総理大臣としての保身につながることを賢明にも学習されたのであろう。マスコミは特に新聞社は言論の府であることを自任しながら、自らの権益のために世論を誘導し政治を動かしているのは明らかである。民主党政権誕生以降におけるマスコミのご都合主義の世論誘導は限度を超えていて、もはや社会の公器としての資格を失っているように私には感じられる。
NHKニュースで、ここ20年間における歳入減少と歳出増加の折れ線グラフが“ワニの口”のようにどんどん開いていっている状況が、消費税引き上げの必要性を大衆に啓蒙するかのごとく効果的に説明されていた。一応、表面的には中立性を装って、消費税引き上げの賛成派と反対派の意見を同列に紹介していたが、賛成派の意見はいかにも税の専門家のような人間を登場させ、反対派にはどこかの野良姿の百姓に、歳出の節約を出来る余地がまだまだたくさんあるとコメントさせていたのには笑ってしまった。競争原理のない親方、日の丸の世界で飯を食っているNHKが、庶民の生活がいかに苦しくなろうとも消費税の引き上げによって国家財政が少しでも回復に向かう方が望ましいと考えるのは当然ではあるが、あまりに露骨で品位の欠ける番組制作は自重していただきたいものだ。
ワニの口のごとく国家財政が逼迫してゆく状態を、国民全体で負担しなければならないという主張は正論である。それなら、なぜそのような緊急事態に法人税の減税の話しが出てくるのだ。法人税は全ての経費を差し引いた最終的な利益に対して課税されるものである。要するに余力のある大企業の税負担を軽減させておいて、その代償に庶民の生活を破壊するような方向へと今の民主党は舵を切ろうとしているのである。低所得者に配慮して消費税の逆進性を緩和するために軽減税率を検討するというが、民主党は(おそらく自民党も)軽減税率を積極的に採用しようとは考えていないであろう。なぜなら一旦、軽減税率を採用してしまうと制度として固定化されてしまうからである。それは政府にとっては都合が悪いのである。しかし低所得者に対する“還付”という方法であるならば消費税引き上げに成功した後に、いくらでも財政難の理由をこじつけて廃止することが出来る。民主党政権が誕生してまだ1年も経っていないが、子供手当ての満額支給や高速道路無料化、ガソリン暫定税率の廃止などの公約がその後、どのような経過を辿ったのかを振り返ればよくわかるはずである。そして10%の消費税率だけが継続されることとなる。国民を馬鹿にするのもいい加減にしろといいたい。
法人税については以前に竹中平蔵氏があるTV番組で、今日のグローバル化した経済競争の中では法人税を低く設定しないとどんどん企業が税率の低い海外に本社を移転して逃げ出していってしまう、実際そのような企業が増えているのだ、と力説していた。私は、よくもそんな子供だましのようなごまかしが言えるものだなと半ば呆れた気持ちで見ていたものだ。10人位の従業員数の規模で数千億の金を瞬時に動かすようなヘッジファンドであれば、法人税率の安いタックスヘブンを求めて本社を移転するであろうが、たとえば松下や日立のような大企業が法人税率の違いで海外支店や現地法人としてではなく本社そのものを移転することが果たしてあり得るであろうか。海外の企業になれば、その国の法律や制度、慣習に縛られることになるのである。常識的に考えれば、そのような企業リスクの高い選択が成される訳がないのである。私の偏見もあるのかも知れないが、竹中氏のように早口で自分の主張を捲くし立てるような話し方をする人はどこか信用がおけない人物である。相手(聴衆)にじっくりと考える余裕を与えないような話し方は、何か疚しい隠しごとがあるように思えるからである。疚しい点とはもちろん政治と大企業の癒着、そして力の弱い庶民を犠牲にするごまかしの政治手法である。
民主党は消費税増税法人税減税を打ち出すことによって、もはやこれまでの自民党政治と差異が認められない集団に成り下がってしまった。またしても大連立の声がどこからか聞こえてきそうで耳を塞ぎたくなるような思いだ。無駄だとは思うが、敢えて問いかけたい。この国に、たった一人でも良心を持って広く国民のための政治を志そうという者はいないのか。