日本振興銀行の前会長、木村剛が金融庁の立ち入り検査を妨害したとして検査忌避の疑いで逮捕された。竹中平蔵氏のブレーンとして小泉政権時代に銀行の不良債権処理を推し進めた人物である。2004年に中小企業への融資を目的にわずか8ヶ月の審査で立ち上げたものの、中小企業への貸出が低迷し、商工ローンの不良債権を安く買い上げるビジネスを始めることとなった。しかしその実態は不良債権処理を隠れ蓑に、商工ローン各企業との親密かつ不正な取引が行われていたものと警視庁から目されている。木村剛前会長は見解が違う、と否認しているものである。
詳細についてはこれ以上のことはわからないが、私の個人的な印象で言えば、資金繰りに苦しむ中小企業を救済するための銀行を設立しておきながら、融資が思った通りに伸びないからと言って、中小、零細企業を食い物にしてきた商工ローンと安易に組むところに木村剛という人物の本性というか、筋の悪さを見るような思いがする。商工ローンとは、保証人を騙すような包括根抵当契約のあり方や社会問題にもなった日栄の債務者に対する非情で過酷な取立てが今尚、記憶に新しいところである。今回、逮捕された木村剛という人物の容疑が、小泉元首相と竹中平蔵氏が中心となって進めてきた構造改革路線の本質を雄弁に物語っているとは見れないだろうか。
もう一点述べれば、確かに小泉政権当時に巨額の不良債権処理を進めていく中で中小・零細企業に対する大銀行の貸し渋り、貸し剥がしが社会問題として報じられてはいた。しかし貸し剥がしはともかく新規の融資ということで言えば、中小・零細企業は大企業に比べて経営基盤や経営体力が脆弱な分、極めて慎重なのである。私が住んでいる大阪は日本でももっとも景況感が厳しいと言われている地域であるが、中小・零細の製造業や加工業の良心的なところは倒産して取引先に迷惑をかける前にと、ここ数年で次々と廃業していっているような有様である。借金したものは、巨大企業であればいざとなれば国が肩代わりしてくれるかも知れないが、中小・零細企業であれば利息をつけて毎月きちんと返済していかなければならない。仕事が増えていく将来性が見えなければ借金する意味などまったくないのである。こういう基本的な経済心理を木村剛前会長は、おそらくまったく見えていなかったのであろう。よって新銀行設立に際してもどこかで根本的な錯誤があったのだと思われる。それは竹中平蔵氏や小泉元首相もまた同様であったのではないのか。どこかで滞留している資金さえ流してやれば景気は回復するという誤った幻想だ。景気とは金の循環に過ぎないとの単純で原理主義的な思い込みだ。