龍のひげ’s blog

子供たちの未来のために日本を変革する

生きること、書くこと 44


余談ではあるが、私が速読を習っていたのはもう3年ほど前のことであるが、その動機は買って読まずに

放ってある本が無数にあって、ある時にこれは金を捨てているようなものだ、あるいは単に本屋を儲けさ

せているだけに過ぎないという至極単純な事実に気づき、読書スピードを上げてダンボール箱に詰め込ん

で放置してある数百冊の本を読破し消化し尽くさなければならない、それが私の人生をより意義あるもの

にする近道ではないかと考えたからである。それである速読教室の基本コースに確か15万円ほど投資し

て通い始めたのであるが、結果から言うと基本コースだけで挫折してしまった。その理由はストップ・ウ

ォッチの計測下で一定時間内に読めた文字数をカウントするという訓練が徐々に馬鹿らしく思えてきたこ

ともあるが、それ以上に私の能力が根本的な壁にぶち当たってしまったからである。具体的に説明すると

六割の理解度による速読スピードが上がってゆくとそれに連れて自然に精読、熟読スピードも向上すると

いうのが教室側の説明だったのであるが、理論的にはそうなのかも知れないけれど、私の場合はそうはな

らなかったのである。確かに要点だけを押さえるような粗雑な読み方のスピードはどんどん上がってゆ

く。新聞などを読むときにはそれで十分なのかもしれないが、小説などを熟読する時のスピードは一向に

速くならない。読むこと、亀の歩みのごとしである。要するに私は速読の習得を通じて思考速度を向上さ

せたかったのであるが、悲しいかな生まれついての頭の程度が災いして速く考えると言うことがどうして

も身に付かないのである。読書における思考速度の効用を数値的に説明する。一冊千円の本が手付かずで

部屋に積まれているだけでは、その本から得られる効用は当然0円である。0にいくつの数字を掛けても

0にしかならないが、物理的な空間だけはしっかりと占拠するので無数の本は我が家的な環境問題になっ

ている。とは言っても、六割理解のスピードでどんどん読破し処分してゆけば、一冊当たり四割(400

円)の損失が確定してしまう。もちろん熟読したからと言って十割の理解が得られるとは限らないが、き

ちんと内容を咀嚼することができそれに対して自分なりの思考を対抗させられるようになれば、その効用

は原価を上回り私は得をすることになるのである。

しかし、性格的な要因による部分も大きいと思われるが私の熟読スピード(思考速度)は、そもそもの初

めから一貫して速く成り得ない性質のものだったと言える。そこには、いかんともしがたいものがあっ

た。無理をして思考速度を速めようとすれば、思考の質を落とさなければならない。しかし思考の質を落

とすということは私にとって生き方の根底的な転換につながる重大事なのである。そこまで考えると結

局、私は一体何者やねん、という極めて深遠かつ哲学的な自問にまでゆきつくのである。

私の私らしさとは何か、言葉で説明することは難しいが映像的に表現すればたくさんの未読の本に囲まれ

て、じっと腕組みをしながら何事か考えているような、気難しそうでいて誰にも理解されがたい男であ

る。およそ生産性とは無縁の自分だけの道を歩み続ける孤独な男である。それが私の本体ならそれでかま

わないではないか。誰に理解されなくとも私の心は安らかだ。それら、わたし的な光景の延長にどのよう

な運命が待ち受けていようとも全てはわたしの一部である。

読書に採算など求めてはならない。読まずとも買うだけで得られる何かがあるのである。しかし最近は

夜、何かの本を2~3ページ読んだだけで催眠術にかかったようにいつの間にかこてんと寝てしまってい

ることが多いので、ちょっと絶望的である。しかし私には腕組みをして何事か考えているだけで、あるい

は寝ていてさえも脳のどこかの部分でもやもやと浮かんでくるアイデアというものがある。この“もやも

や”を侮ってはならない。私はこの“もやもや”を言語化することだけで全世界とまではいかなくとも日

本のシステムを相手に立ち向かってやろうと本気で考えているのだから。大量の情報をスキャニングした

り、論理的な思考分野において人間の脳はもはやコンピューターに到底太刀打ちできない。しかし私の

“もやもや”は、世界で最も進んでいるコンピューターが今日の速度で今後100年進化したところで追い

付けない(解析できない)ものであると自負することにする。

所詮は挫折者の言い訳である。しかし人生とはどんな人生であれ、言い訳をひたすら積み重ねて正当化す

るものだから、それはそれでいいではないか。



『悲しくてやりきれない』作詞:サトウ・ハチロー

悲しくて 悲しくて

とても やりきれない

このやるせない モヤモヤを

だれかに告げようか