龍のひげ’s blog

子供たちの未来のために日本を変革する

夜空の彼方へ

冬の夜空には
もう、忘れてしまった苦しみや悲しみが、
煌く星々となって瞬いている。
20代の頃には、理由もなく、悲しくて、不安で、
とにかく、生きていることが恐ろしかった。
自分は地獄世界の住人だと思い込んでいた。
でも今でははっきりと分かる。
あの頃の苦しみは、本当は私だけのものではなかったのだ。
夜空に掛かる星のように、私が生まれる前からそして私の死後も
永劫に白々と輝き続けているであろう。
人生の苦悩の本体が解明されるために
一時的に媒介として、私の肉体と魂に宿っていたに過ぎない。
私の存在は白光の通過点である。
全ては認識力の問題なのだ。
真理を見通す認識の曇りが、無明や迷妄となって
人間の苦しみと不幸を生み出している。
この清澄な冬の空気のように、冷え冷えとした孤独に打ち震えながら
ただひたすらに魂を透き通らせてゆけば
私の苦しみと悲しみは、私自身を離れて飛翔し
夜空に星となって輝くのだ。
そして無我の平安に包まれつつ、一点の星を見つめて
私は心の中でこう呟いた。
これから私は、もっともっと透明になって
より根源的で、より普遍的な人間世界の苦しみを
この夜空に一等星のように、輝かせてやるからな。
夜空よ、覚悟しろ。
そうして眠りについたところ、
天使なのか悪魔なのか知らないが、
本当は、天使も悪魔も似たようなものだが、
寝ている私の魂を冬の夜空の彼方へと連れてゆき、
夢の中で、このような光景を見せてくれたのであった。
そこは地球の未来なのか、それとも別の惑星なのであろうか、
人工的に作られたアマゾンのような巨大な森林と都市が
整然と区画化され、自然と人間が見事に共存し、調和している
文明であった。
都市の外周、天空にはループの周回を走る交通機関が浮かんでいて
各々のステイションから、空中を滑走する乗り物が、
数人が乗り合わせて、地上世界の目的地へと降り立ってゆくのであった。
その文明世界では複数のコングロマリットが、
天文学的な利益を上げていて、住人たちも信じられないほどの
豊かさを享受していた。
そしてその世界には不思議なことに、
貧困という概念が存在しないのだ。
全ての人々が差別なく、当たり前のように
無限の豊かさに包まれて暮していた。
私は外縁天空のステイションから
すり鉢状の底に拡がる夢の地上世界へと
涙ながらに、飛んでゆくのであった。
ふと気が付くと、私は旧時代の木造民家の建物の中にいた。
その文明には、未だに昔ながらの家屋が一部地域に
とり残されていて、人間の手作業で解体、撤去がなされていた。
私はその家屋の中で作業をしながら、誰かに向かって
いずれはこういう仕事も
ロボットがすることになるのだろうな、
と話しかけた時に目が覚めて
元のこの世界に戻ってきたのである。
・・・・・ただいま、だ。