龍のひげ’s blog

子供たちの未来のために日本を変革する

犬の声

深夜1時半、隣の家の犬が鳴いている。
闇を切り裂く犬の声が布団に入った私の耳を打つ。
あの犬は一体、何を訴えているのであろうか。
腹が減っているのか。
それとも寂しい、もっと構ってくれと言っているのか。
散歩の回数が少ないとの怒りを表明しているのか。
こんな家に飼われたくはなかったと文句を言っているのか。
本当は、犬畜生になど生まれてきたくはなかったと嘆いているのか。
早く死んで生まれ変わりたいとの切実な祈りの声なのか。
それともこんな人間世界の在り方は
道徳的に間違っているなどと
犬の分際で偉そうに、人間に説教しているつもりか。
人間世界のご高説など犬の鳴き声とさほど違いがないことを
喉を嗄らして自ら証明しようとしているのか。
いや、単に動物的に交尾がしたいと
欲求不満なだけなのかも知れない。
それが一番、有り得る。
去勢はしていないのであろうか。
ああ、ともかくも犬は疲れることもなく
一晩中でも鳴いている。
黒々とした夜空に真意のよくわからない
犬の声が朗朗と響く。
だが誰一人として、犬の相手をしようとする者は現れない。
怒っても、宥めてもどうしようもないことなのだ。
放っておくしかないのだ。
だが犬の存在は決して、見捨てられた訳でも、
無視されているものでもない。
それどころか犬の鳴き声は、その哀切な心情は
ヒステリックな欲求不満であっても
人間世界を憂うる有徳な魂から発せられたものであろうと
飼い主の家と近隣地域を超えて
地球を覆う空全体に
そしてあの白々とした月面やアガルタの地底世界だけではなく
天の川銀河の果てにまで浸透するであろう。
犬はそういうことを本能的にわかっているので
どれほど孤独であろうと、やかましいなどと疎まれても
鳴き続けなければならない宿命を感じているのだ。
そういうことを考えながらやがて私の身体は
安らかな眠りに落ち、
魂は身体を離れて、犬の声と共に
夜空を飛翔する。