ブレスレット
私が来世、生まれる予定の350年後の世界では
人々は腕にブレスレットを嵌めている。
そのブレスレットは
金や銀や橙色に輝きながら人々を導き、
男と女たちは出会い、共に働く小集落の中で複数のファミリーを形成している。
国家の中央集権的な統治形態は影を薄め
原始共同体的な群落が各地に点在している。
温暖化による海水面の上昇であまたの土地は水没し
湿地帯と化した都会に悪性のウイルスが猛威をふるう。
食料不足も相俟って世界の人口は3分の1にまで減少している。
人々が高地の山林へと避難し自給自足の生活をするようになる頃から
国の支配や管理は次第に及ばなくなり
分散的な集団自治で人々は助け合いながら、生き延びてゆくこととなる。
しかし交通は遮断され、医薬品は不足し
体力のない者や、幼児らが次々と死んでゆく。
そのような時代に
ブレスレットが生き残るべき人々に大いなる力を与える。
ウイルスや細菌への感染を防ぎ、闇を照らし、遠隔地にいる人々と交信することが出来る。
旱魃時には祈りの力を増幅させ龍神を呼び覚まし雨を降らせる。
そのようなブレスレットがいつ開発され、どのように伝えられてきたのか誰にもわからない。宇宙人のテ
クノロジーによって作られたのだという人もいる。
ブレスレットは物体でありながら高度な知性と生命を有している。
そして人間が滅びつつある地球上で独自の進化を続けてゆく。
嗚呼、ブレスレット、神の力。
胸深く刻んで忘れることなかれ。
いつの日か、その時に
ブレスレットが金や銀や橙色に輝いて
私はあなたと出会うだろう。