目覚めれば、蝉の声。
我が青春の麗しき恋の夢を見ていたのに、
蝉に起こされる。
生命の雑音。
街中の不協和音。
じりじりと日中へと向けて
気温を上げてゆくかのような蝉の鳴き声。
ああ、早く死ねばよいのに。
お前らが、この夏の地上から
一匹たりともいなくなれば
そして路上のアスファルトから
全ての死骸が掃き清められる頃
爽やかな秋の風が吹き始めるであろう。
蝉たちよ。何をそんなに忙しげに鳴くことがあるのか。
死が迫っていることを知っているからなのか。
一体、鳴くことに何の理由があるのだ。
求愛でもしているのか。
大きな声で鳴けるほどに優越な蝉の遺伝子。
でも所詮は、喧しいだけの
無価値で、無意味な儚い生命。
そして人間たちもまた蝉のように鳴いている。
目には見えない打算と計略の羽を打ち合わせ、
金や地位の大木にしがみ付き
自らの大義と使命を叫びつつ
無価値な生命の終焉を待っている。
ああ、早く秋がくれば
私は、蝉の雑音に妨害されることなく
静かに美しい恋の夢の続きを
見ることができるであろう。