生きること、書くこと 102
やはり、どうも怪しい。怪しいと言うよりは胡散臭いと言うべきか。
日本テレビの「真相報道バンキシャ!」における虚偽報道問題である。当初の説明では同番組内で虚偽の
証言をしたとして偽計業務妨害で逮捕された男に“騙された”理由として、不利益を承知で告発している
ことや謝礼の要求がなかったことなどを“信じるに足る”根拠であったとしていた。騙されるだけの理由
があったと弁解していたのである。日本テレビ前社長の辞任会見においても「謝礼等の受け渡しはなかっ
たと報告を受けている。またそうであると信じている。」と述べていた。そもそも裏金の存在を指摘され
た岐阜県が徹底的に全ての職員を調査して裏金の事実が確認出来ないと判断し、刑事告発までしているの
に問題の当事者であるテレビ会社社長の釈明が“受けた報告を信じている”というレベルであれば本当に
責任を感じているとは思えない。報告が正しいかどうかの裏づけなど社長であれば簡単に取れるはずだか
らである。
常識的に考えれば大の大人が時間を割いて番組に出演し、取材に応じるのであればあからさまに要求しな
くとも謝礼を期待するのは当たり前である。また番組制作会社も謝礼を支払うことは日常的に行われてい
る自然な業務の流れであるだろう。仮に私であれば一日仕事を休んで大阪から東京のテレビ局まで行って
取材に応じるのであれば、交通費以外に1~2万円位の金であれば到底応じる気持ちにはなれないだろ
う。日本テレビの理屈を裏返せば謝礼を要求された情報は偽物ということになる。しかしそんな馬鹿な話
しはない。謝礼があろうがなかろうが真実は真実であり、嘘は嘘である。謝礼の要求事実を真実性の判断
基準として弁明すること自体が極めていんちき臭いのである。
その後の情報で虚偽証言で逮捕された男は番組のアンケートサイトを通じて番組スタッフから取材の依頼
を受け、謝礼を期待して虚偽情報を提供したとされている。日本テレビはこの取材方法に問題があったと
言っているがはたしてそうであろうか。どのような情報源からであれ、謝礼要求の有無に関わらず報道番
組を制作する絶対的な条件である“真実”を尊重する、誠実かつ真摯な倫理観があれば本来問題はないは
ずである。このように金銭的な潔癖感を情報の信憑性に結びつけるところに世論誘導や、“やらせ”隠蔽
の臭いを感じるのは私だけであろうか。
日本テレビの社員や下請けの制作会社、ディレクター混成の「裏金」取材チームが逮捕された男に総計1
0時間にも及ぶ取材を行ったという報告も到底、信じることは出来ない。10分の間違いではないのか。
混成チームといったところで局の正社員と下請けディレクターでは力関係に歴然とした違いがあるだろ
う。混成とは名ばかりで、不景気の影響下、制作費の削減を余儀なくされた制作会社が納期とコストに追
い詰められるように番組を制作しているであろう姿が目に浮かぶようである。逮捕された男は、以前から
他局の番組にも度々登場していたようだ。マンション耐震偽装の摘発であったりバイアグラの被験報告で
あったりもしたという。まさに何でもありだ。また男は架空の工事を発注したとして80万円を騙し取っ
た詐欺容疑でバンキシャ!出演後に逮捕されている。そのような男に取材チームが10時間にも及ぶ取材
をして本当に騙されるであろうか。裏金の送金記録を記者を外で待たせて自宅で表計算ソフトで作ったと
は噴飯物だ。“なぜ日本テレビは嘘が見抜けなかったか”など恥ずかしげもなく、よくもそのような白々
しいことを言えるものだ。
テレビ局や新聞社は、番組制作や読者投稿などにおいていつでも番組内容や記事の意向に沿うような発言
をしてくれる人間を常時、複数囲っているのではないのか。真実そのものが尊重されるのではなく、番組
や記事内容が、すなわち局や新聞社の意向が真実を巧妙に作り出しているのではないか。このような“や
らせ体質”がマスコミだけでなく、警察や司法、行政など様々な分野で通底しながら日本中に深く染込ん
でいるように思え、私は絶望する。もちろん公共性や社会倫理などと言ったところで、所詮100%の奇
麗事で動けない事情はよくわかる。厳しい経済原理に従わざるを得ないから、多少の誇張や誘導、時には
捏造も避けられないのかも知れない。しかし、それを言うなら食品会社の賞味期限や産地偽装問題でどれ
だけの関係者が逮捕され、またどれだけの会社が廃業や倒産に追い込まれたのかと言いたい。同じ構図で
はないのか。むしろ大新聞社やテレビ局などのマスコミは業界内で厳しい競争をしていることは認める
が、業界そのものは公共性という観点から保護されているのである。国策的に業界の利益が守られている
とも言える。だからこれまで世界市場を席巻してきた自動車会社や電気機器メーカーが赤字に陥っている
にも関わらず、大手マスコミはいまだに優に年収平均1000万円以上超す地位を誇れているのである。
メディア業界の問題の本質は、他の民間企業同様に金儲けの論理で動いているにも関わらずそれを認めよ
うとせずに、“正義”を支配してしまうところにある。“支配”という表現が行き過ぎであるというな
ら、“調整”とも言えよう。だから他業界や政治家の不正報道に比べれば、「真相報道バンキシャ!」の
虚偽報道問題への追求は、どこかおざなりというかお手盛りの感じがするのではないだろうか。私はBP
Oという組織そのものが真に高度な倫理意識を有しているのかどうかよくわからない。高度な倫理意識と
は放送業界だけでなく日本全体の各分野の有機的な繋がりのなかから新しい時代に即した総合的な価値判
断が出来るかどうかということである。業界内倫理は業界内利益と同義で、結局のところ我々国民を豊か
にするものではない。
私はむしろ国会で証人喚問すべき事案だと考える。膿は全て出し尽さなければならない。しかしそうはな
らないであろう。何かしら国民を目覚めさせないような悪魔的な力が働いているように直感的に私は感じ
る。だから私は諦めることにする。所詮、私一人の力でどうにもなるものではないし、実のところ私は悪
魔の論理もわかるような気がしないでもないからだ。
私が和解すべき相手は悪魔なのかも知れない。この世の物質原理は全て、正義も真実も悪魔の成せる業で
ある。