龍のひげ’s blog

子供たちの未来のために日本を変革する

TPP加盟反対 3

野田総理がハワイで行われるAPEC首脳会議を目前に、TPP交渉参加の意思を固めたことが報じられた。TPP加盟の是非を論ずる前に、先ず我々はその前提としてアメリカと言う国の本質をよく理解する必要性がある。アメリカとは、アメリカの資本主義とは、簡単にわかりやすく言えば上位1%の人間が全体の富の90%を支配する社会メカニズムである。具体的な数字に当てはめると100人の人間がいて、そこに100万円の金があるとすれば、1人の人間が90万円を取って、残り10万円の金を99人で分ける(1人当たり約1000円)ことになる。これ位の格差がアメリカ社会には厳然と存在している。自由や平等を声高に謳ったところで、所詮は僅か1%の強者の利益を守るための論法なのだ。そしてこの仕組みを国内だけでなく、世界中に展開させてゆく手段として自由貿易協定の本来の意味があると言えよう。よって自由貿易は国家間の総体的な利害対立や経済圏内の貿易拡大の視点で論じられることが多いが、実態的には一国内の所得階層間における絶望的なまでの格差の拡大や、その格差構造がより一層、強化されゆく点に意識をフォーカスしなければ正しく思考することは出来ない。日本のマスコミがTPP加盟を推進しようと論説を張るのは(消費税増税も基本的には同様だと思われるが)、単に上位1%の利益を享受し得る最も近い地点に位置しているからに過ぎない。よってマスコミはアメリカの強欲な資本主義を批判しないし、また批判できないのだ。マスコミの論調は、先に韓米FTAを締結させた韓国を引き合いに出し、日本がTPPに参加しなければ今後、自動車業界などの重要な輸出市場で挽回が効かなくなるというものだ。確かにウォン安の為替に加えて関税がなくなれば対等に輸出競争し得る条件でないことは事実であるが、韓国がアメリカに韓国車を輸出するのと同じスケールで、アメリカ車を輸入することが出来るかどうかはかなり疑問である。中・長期的に見れば不均衡貿易となり破綻する可能性が高いであろう。よって日本は、日本国内でドイツの高級車が売れ続けているように、品質の優位性とブランドの確立で勝負をする原点に立ち返らなければ、結局振り回されるだけで何の利益もない結果に終わる可能性が極めて高い。また農業について言えば、前回私は韓国が農業にかなり力を入れていると述べたが、よく調べてみると韓国は1990年代に将来の輸入自由化を見据えて強力に農業改革を推し進めたが、結論を言えばその改革は失敗であった。輸出依存度の高い韓国という国の宿命であろうが、国家戦略としてのセグメンテイションが、“集中と選択”というスローガンの下に農業を自動車業界などの製造業と同様に輸出競争力の向上に特化させ過ぎたのだ。その結果、パプリカやミニトマトなどの一部の付加価値が高い農産物は飛躍的に輸出を伸ばしたが、コメや小麦などの国民生活に必要な農産物はほぼ壊滅的なダメージを受け、全体としての食料自給率も大きく引き下がることとなった。農業全体の底上げや活性化にはつながらなかったのである。適切な喩えかどうかわからないが、国際化の流れの中での経済政策は、サッカーの試合と似たようなもので攻撃(オフェンス)と防御(ディフェンス)のバランスが大切なのである。農業は言うまでもなく“防御”の領分だ。ディフェンスまでが攻め上がって総攻撃をかけていると、がら空きになった味方の陣地は干上がってしまって、最終的には攻撃能力も殺がれてしまうこととなる。要するにその国は必然的に敗北せざるを得ないのである。韓国国内にも韓米FTAや韓EU・FTAに対して反対する世論が大きいのは、そういう自由貿易の危うさというかリスクを国民が理解し始めていることと、韓国政府内部でも反省があるからではないかと私は考えている。
自由貿易の危険性が最も顕著に示されている実例がNAFTA(北米自由貿易協定)である。1994年に発効したアメリカ、カナダ、メキシコ3ヶ国によるNAFTAによってメキシコの農業は深刻な打撃を被ることとなった。多国籍企業による支配と輸入の急増により、国内の農家は駆逐され多くの人間が住んでいる土地を追われた。先進国入りする上で不可欠だと考えられたNAFTAは確かにメキシコの経済を大きく成長させたが、富を得たのはマキラドーラに工場を作ったごく一部の資本家だけであった。工場の仕事にありつける人間は少数であり、アメリカにまで出稼ぎに行く労働者も多かったが、2007年のサブプライムローン問題と2008年のリーマンショックによる不景気でアメリカでの低賃金労働もなくなってしまうこととなる。その結果が麻薬密輸を資金源とするメキシコマフイアの強大化である。2006年にメキシコ大統領に就任したカルデロン大統領は麻薬密売撲滅を宣言し、メキシコ軍部とマフィアの戦争状態に突入しているようだが、アメリカと国境を接する、バハ・カリフォルニア州や、ソノラ州チワワ州などの北部地域は実質的にマフィアによって統治されており世界で最悪の治安地帯となっている。マフィアに見せしめに殺されて、首や四肢をばらばらにされた状態で路上に放置される警察官が日常的な光景になっており、まさに異常事態である。これらの地獄のような社会無秩序を生み出した発端が実はNAFTAであることを野田総理を初め、日本の政治家はただの一人でも知っているのであろうか。知っていてもアメリカの要請だからTPP加盟は已む無く従うと言うのか。
最後にアメリカDEA(麻薬取締局)捜査官とメキシコマフィアの30年にも及ぶ壮絶な戦いを描いたドン・ウィンズロウの『犬の力』(角川文庫)から一文を引用させていただくことにする。因みにこの小説は必読の書である。私は2回読んだ。こういう小説をアメリカ人が書くということに私はアメリカ人の、アメリカ国民の良心を感じる。
「そして今、NAFTAの恐怖がインディオたちを、残されたなけなしの土地から追い出そうとしている。もっと効率的な大農場の面積を増やすために…。国じゅうの小作農地が、より大規模なコーヒー農園(フィンカ)や、鉱業や林業の用地に、そしてもちろん、石油の掘削地に吸収統合されつつあるのだ。
あらゆるものを、資本主義の祭壇に捧げなければならないというのか?」
(『犬の力』上巻 P505