龍のひげ’s blog

子供たちの未来のために日本を変革する

バーでの危険な会話

ある日のことである。息子の用事で、息子と元妻が住むマンションに行き、その帰りに、暖かくて気候も良かったので一杯飲みたい気分になり、バーに立ち寄ることにしたのであった。以前から知ってはいたが、初めて入る店である。どんな店でも、一人で初めて入る時には、ちょっとした勇気がいるものである。ぼったくられるような危険性はないにせよだ。表通りから一本引っ込んだ通りの2階にその店はあった。扉を押して、私にとっての小さな新しい世界を覗き見るようにそって入っていくと、広い店内に客は一人もいないで、外国人の男性バーテンダーが一人いるのみであった。壁に掛けられたTV画面から、洋楽のミュージックビデオが静かに流れていた。平日ではあったが、夜の8時過ぎである。全然はやっていないんだなと思いつつ、引き返す訳にもいかず、諦めたようにカウンターの椅子に座ってソルティー・ドッグを注文した。正直に言って、あまり美味しいとは言えないソルティー・ドッグであった。酒の味にこだわりを持つ店ではなさそうである。店内に虚ろに響くバラードの曲を何気に聞きながら、束の間を物思いに耽りつつ過ごした。途中でバーテンダーが気を利かせたように、TVモニターの方を見ながら「この曲で大丈夫ですか。」と聞いてきたので、私は「OK。」と答えた。さてその一杯を飲み終えようとする頃に私はちょっと迷ったのであった。飲み足りないが、別のカクテルを注文しても出てくるものは同じ程度の味であろうし、初めての店で私一人だけでは何となく落ち着かない気分である。しかし一杯だけで帰るのも、あまりに愛想無しではなかろうかと考えた。この外国人バーテンダーは気分を害して酒の値段はともかく、チャージとかでふっかけてこないだろうか。そうしたところバーテンダーは私の心の動きを瞬時のテレパシーで察したように、片言の日本語でこのように話しかけてきたのである。「ソルティー・ドッグ、美味しいですね。」私は、ここのソルティー・ドッグはそうでもないとも言えずに、そのバーテンダーの顔を正面から改めてよく見れば、悪そうな人間ではない。若そうな割には、軽薄な感じがなく、物静かで落ち着いていて知的な雰囲気もあり、事故死したFIドライバーのアイルトン・セナに少し似ていた。それで私は、「アー、ユー、アメリカン?」と聞いた。そうしたところ、「ノー、オーストレイリア」ということであった。という流れで、私はカクテルではなくビールを注文してそのオーストラリア人バーテンダーと暫しの間、会話をすることとなったのである。日本に来て7年だそうである。どうして日本に来たのかと聞くと、オーストラリアの大学で日本について勉強していて、日本の庭園や女性はとても美しいので予てより興味があったということであった。私は庭園はともかく、女性の美しさは個人差が大きいから一概には言えないはずだと内心、思ったものの、一応「アイ、シー」とばかりに話しを合わせて聞いていた。因みに現在、男は日本女性と結婚して暮らしているとのことである。私は「それは良かったね。ユー、アー、ヴェリー、ラッキーマン。」と言うと、黙って頷いていた。その男性とはオーストラリアの物価のことについても話した。と言っても私の英単語を適当に並べるだけの語学力と、バーテンダーの片言の日本語では、込み入った難しい会話は出来ないが、大体のところはわかる。一般的にはオーストラリアは日本と違って物価が安く、暮らしやすいというイメージがある。実際のところはどうなのか聞いてみると、意外なことにそうではないらしい。男はメモを取り出してきて、ボールペンでタバコとコカ・コーラの値段を書いて説明した。どちらも日本の倍の値段である。どうもオーストラリアは企業の数が少なくて、価格競争が少ないゆえに物価は高くなる傾向があるようである。日本のデフレ圧力とは正反対である。それから気候の話しもした。日本の冬は、南半球のオーストラリアでは夏だ。昨年から今年にかけての南半球の夏は大変な猛暑であったようなので、日本の今年の夏もまたクレイジーな暑さになるのではないか心配だと私は言った。そうしたところ男は、オーストラリアでは数年前にほとんど雨が降らない時期が長く続いて、非常に深刻な渇水の問題があったと話しだした。「やはり世界的な異常気象なんだな。」と私が言うと、男は、ところがある日、急に雨が街中が水浸しになるほどに降り続けて、水不足が一挙に解決したとのだと身振り手振りを交えて説明した。それも異常気象の一環なのであろうが、ふと私は何気なしに、「もしかすれば、それはガバメント(政府)によるアーティフィシャル(人工的)なものではないのか。」と言って、一瞬、笑われるかと思ったが、意外なことに男は、真面目な顔で頷きながら「メイビー(多分そうだ。)」と答えたのである。それで私はそれはオーストラリアの政府によるものと思うかと聞けば、男は「ノー、アメリカ。ハープ。」と答えて、またメモに気象兵器であるハープの仕組み図を書いて懸命に説明するのであるが、私には全然、理解できなかった。しかし私は「以前から、最近日本に起こるビッグアースクエイク(大地震)は人工的なものではないかと考えている。特に1995年の神戸の大地震は恐らくそうだ。」と話すと、男は、「ポッシブル(あり得る)。」と言うのである。普通、初めての店でこのような事を口にすれば、店の人間が日本人であれば間違いなく口元に浮かぶであろう冷やかな笑みが、その男の顔にはまったくなかった。かと言って私をからかっている訳でもない。至って真面目そのものなのである。男が言うにはアメリカはハープでノース・コリア(北朝鮮)を攻撃したことがあるが、失敗して日本に被害をもたらしたなどという話しをしたが、そんな話は私は聞いたことがないし、また信じ難いことでもあった。私はハープなるものはよく分からないが、人工地震はもっと直接的な方法によるものだと思う、恐らくはニュークリアー・ボム(核爆弾)を震源地となる海底に埋設して、爆破させているのだと思う、と言うと男はまた真面目な顔で「ポッシブル。」と言った。そして男はどこかから電子辞書を持ってきて、何やら入力して私に見せると、そこには日本語で「陰謀」と表記されてあった。私は笑いながら、そうだ陰謀だと言って、アメリカという国は何をするかわからないから恐ろしいと言った。「神戸の大地震の時には当時、建造中であった明石海峡大橋近くの海底に、その工事に参加していたCIAと関係の深いアメリカの民間会社が、核爆弾を設置した。」そうすると男は私の話しに興味を示し始めて、「それは何という会社ですか。」と聞いてきた。
「○○○○だ。」
「知らないです。」
「規模は大きいけれど、一般的にはアメリカ人にすらほとんど知られていない。」
「ポッシブル。でもどうして、そういうことをするのですか。」と私に聞いてくるから、私は少し考えながら、「先ず表面的には世界の人口問題があって、地球の人口を削減することを目的とする秘密クラブの悪魔的な思想がある。」と答えた。それから「日本は被害国であると同時に、いや被害国でありながら、日本の政府は信じられない事に、その悪魔的な計画に関与させられている可能性すらある。アイム、ソー、テリブル」と言うと、男は「オー。」と言ってから、しばらくしてから気を取り直すようにこう言ったのであった。「でも、まだそうだと決まった訳ではありません。リラックスして下さい。そして今はお酒を楽しんで下さい。」私は小さく、「はい。」と答えた。