龍のひげ’s blog

子供たちの未来のために日本を変革する

映画『ダンケルク』を見る

人生にはいい映画を見るという喜びがある。話題の『ダンケルク』を早速、鑑賞した。映像が素晴らしい。音響の迫力も凄い。見るというよりは、その場にいて体験しているかのような臨場感がある。それでいて海や船を映す瞬間の風景には、どこかターナーの絵を見るような静謐さと詩的な美しさがある。いい映画だった。映画を見終った日の夜には高校生の息子に電話を掛けて、友達と見に行くように言っておいた。
ダンケルクとは、ドーバー海峡に面したフランスの地名である。この戦争映画は史実に基づいて作られた実話である。簡単に歴史的な経緯を紹介すると、1939年にヒトラー率いるドイツがポーランドに侵攻して、ポーランドと同盟関係にあったイギリスとフランスがドイツに宣戦を布告し、第二次世界大戦が勃発する。ドイツの東側に位置するポーランドにイギリスとフランスは援軍を送ることが出来ずにポーランドはいとも簡単にドイツの占領下に置かれることになる。翌年の1940年にはドイツは、ノルウェーデンマークに続いて、ドイツの西側に隣接するオランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、フランスにまで侵攻を開始する。フランス、ベルギー、イギリスの連合軍は、ベルギー領内のディール川沿いに防衛戦を構築して、侵攻してくるドイツを迎撃する「Dプラン」を発動させる。ところがドイツ軍は巧妙にも連合軍の裏をかいて、それまで戦車部隊の通過は不可能と考えられていた、Dプランを南下した地点に位置するアルデンヌという森林地帯を通って、連合軍の背後を固めてしまったのである。ディール川沿いの防衛線とドイツ軍に挟まれた連合軍は完全に逃げ場を失ってしまって袋の鼠状態に陥ってしまったのであった。それによってベルギー軍は降伏することとなる。何とか逃げようとする英仏軍は、ドーバー海峡を臨むダンケルクの地に追い込まれてしまったのであった。イギリス政府はフランスに派遣した40万もの兵士の命を救うべく、艦船を用いて窮鼠状態の兵士を本国のイギリスに帰還させる「ダイナモ」作戦を発動させたのであった。この映画はダンケルクの地に追い込まれたイギリスの兵士が故国に逃げ帰るための戦いを描いているものである。逃げるが勝ちではないが、この時に40万人もの兵力が皆殺しされていたり、捕虜になっていればその後の歴史は変わっていた可能性もあったであろう。そして感動的なことには、このダイナモ作戦の救出劇に何の武器も持たない多数の民間人、民間船までもが命がけで協力して参加しているのである。海上で空からドイツ空軍の戦闘機に狙われて爆撃されればひとたまりもない。イギリス空軍のスピットファイアが迎え撃ってくれることを信じてであろうが、それでもこの作戦に民間船が参加することの恐怖と勇気は途轍もないものであったことであろう。そういう映画であった。今や何でもCGやデジタル技術で表現できる時代に、ほとんど実写でまた実際にダンケルクの地でこの戦争映画を撮影したクリストファー・ノーラン監督の姿勢には、イギリス人の誇りとして今も語り継がれる、不可能を可能にするダンケルク・スピリットが感じられたものである。この映画を見れば体感できるように戦争は本当に悲惨である。戦争の悲惨さを美化してはならないであろう。しかし自らの生命の危険も顧みずに同国人を救出に向かう人々の勇気は、やはり永遠に称えられるべきなのであろう。