龍のひげ’s blog

子供たちの未来のために日本を変革する

生きること、書くこと 28

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日本がやらせ的な状況に支配されているのはメディアに本当の競争がないからだ、と私は言った。そのこ

とについて説明する前に、最近見た映画について書きたい。『サルバドールの朝』というスペイン映画で

ある。サルバドールとは実在した人物の名前であり、Salvador Puig Antich(サルバドール・プッチ・

アンティック)という。フランコ独裁政権末期のスペインにおいて、権力に反発し自由を求めるための闘

争活動をしていた若者を描いた映画である。活動資金を得るために仲間たちと銀行強盗を繰り返していた

サルバドールは、反体制の犯罪者としてマークされ逃走生活を続けることになる。ある日仲間との密会場

所に張り込んだ警官ともみ合いになり、サルバドールは3,4人の警官に頭を殴られ流血する。敵も見方

もわからないような混乱状態でサルバドールが放った銃弾が運悪く若い警官に当たってしまう。(その後

軍法会議においてサルバドールは「狙ったわけではない、倒れながらの体勢で何も狙わずに撃った」と

証言している。)サルバドールは瀕死の重傷を負い、病院に搬送され一命を取り留めるが、サルバドール

に撃たれた若い警官は死亡する。サルバドールは警官殺しの罪状によって死刑を求刑されることとなる。

死んだ警官の体には、別の警官の撃った弾丸も残されていたのだが、その検死結果はもみ消されてしま

う。

サルバドールの父親ホアキムは、第二共和制時代にアクシオ・カタラ(カタルーニャ主義の政党)の過激

派で、カタルーニャ政治運動家であった。一時フランスの難民キャンプに亡命していたがスペインに戻っ

た後、死刑判決を受ける。しかし最後には恩赦によって救われたという過去を持つ。ホアキムは助かった

ものの、死刑の恐怖によって性格が変わってしまった。獄中にある息子サルバドールと面会しようともせ

ずに独り絶望の淵に沈んでゆく。

サルバドールの弁護を引き受けたアラウは、サルバドールの活動には共感しないものの、この国(スペイ

ン)を何とかしたいという正義感を持った弁護士である。何としてもサルバドールを救ってやりたいと必

死で闘う。求刑は死刑であるものの世論の動向によって何とか極刑は回避できる見通しはあった。しか

し、運悪く別の組織であるETA(バスク祖国と自由)が爆弾テロによってカレロ・ブランコ首相を暗殺

するという事件が起こる。サルバドールは、権力側の報復として見せしめに死刑を宣告される。サルバド

ールは犯罪者ではあったが、より良い社会を作ることを心から願っていた。活動資金を得るために銀行強

盗をしていたものの(映画の中でサルバドールは“接収”という言葉を使っていた)人の命を奪うつもり

は毛頭なかった。若さゆえの無謀な行動ではあったが、明るくユーモアに溢れ、文学を愛する繊細さをあ

わせもつハンサムな一青年だったのである。サルバドールは恋人マルガリータに「恥じることは何もして

いない。」と打ち明ける。その信念がサルバドールの全てであった。

ついに閣議で死刑執行が承認されるが、弁護士アラウはあきらめず、恩赦を求めて仲間の弁護士たちと一

緒に全ての議員やマスコミ、大使館、皇太子、ローマ法王にまで電話をかけまくる。処刑を間近にひかえ

たサルバドールのもとに3人の姉妹が駆けつける。恩赦が下され刑の執行が回避されることを信じつつサ

ルバドールに寄り添い、夜を徹して昔の写真を見ながら思い出話しをする。このシーンには泣かされてし

まった。姉妹の一人が、フランソワ・トリュフォー監督の映画『大人は判ってくれない』の話しをする。

ラストシーンで少年院を脱走して逃走した少年が海辺にたどり着き、生まれて初めて海を見るのだ。自由

の素晴らしさが海という象徴となって輝き、眼前に見えてくるような話しだった。サルバドールは黙って

聞いている。今、思い出しても私の胸は締め付けられる。

恩赦の願いも空しく、ついにサルバドールは処刑されることとなる。処刑室でサルバドールは処刑の方法

が“ガローテ”であることを知り、思わず「最低だ」とつぶやく。ガローテとは最も残酷な死刑方法であ

った。柱を背に椅子に座らされる。首に鉄環をはめて、柱の後方から船を操縦する舵のような大きなネジ

で締め上げて首の骨を折るのである。怯えるサルバドールに対して、刑史は無表情に早く終わらしてしま

おうと言う。そしてカメラは、もがき苦しみながら死んでゆくサルバドールの様子を克明に映していた。

1974年3月2日、サルバドールは25歳の若さで没する。残された姉妹たちは、今日に至るも裁判の

やり直しを求めて闘っているのだという。

私はこの映画を見て少し憂鬱になってしまった。美しい青年が残忍に処刑される場面を思い出すと今でも

とてもいやな気持ちになる。因みに映画パンフレット表紙はサルバドールを演じた役者、ダニエル・ブリ

ュールであり、スーツ姿の上半身とバイクに跨っている写真は実在したサルバドールの生前のものであ

る。一口に憂鬱と言っても、そこにはいろいろな感情が交錯している。この映画を見た感想を現況の日本

との関連において以下、三点にまとめた。