生きること、書くこと 40
前回に引き続いてのぼやきである。重要な点なので誤解のないように断っておくが、私はタレント候補が
いけないと言っているのではない。宮崎県のなんとかという名前の難しい知事は、40歳ぐらいになって
から大学に通って政治の勉強をした。自分の夢を実現させるために家庭も犠牲にした。要するに志の問題
なのである。宮崎県知事はタレントだから当選したのではない。きちんとした志があって(それは本来政
治家として当たり前のことである)、その上でタレントとしての知名度があったことがプラスになって当
選したのだと思う。
一方、橋下氏はどうだ。タレントだからという理由以外で当選した要因が何かあるか。そもそも、あれが
志のある人間の出馬の仕方か。土壇場でどたばたと誰かに丸め込まれた結果であるのは明らかじゃない
か。タレントであれば、たいした志がなくとも簡単に勝ててしまうということが問題なのだ。当初から知
事選への出馬を見据えた上で知名度や好感度を高めるためにTV出演していたのであればまだしも理解で
きる。しかし彼の場合は、どう見てもTV出演への社会的な意義や将来の政治活動への布石からではなく
て単に弁護士の本業よりもタレント活動の方が楽に儲かるからしていたとしか思えないではないか。
そりゃあ、出馬が正式に決まってしまえばあるいは当選してしまえば、それらしいことを演説することは
出来るだろう。弁護士だから当然だ。一夜漬けの勉強でもっともらしいことを言えるだけの頭がなければ
司法試験には合格しない。しかし、それは本物の志とはいえない。大阪への愛とか恩返しだとか、私にと
っては見え透いた嘘っぱちであることがはっきりしている。どうして大衆は皮相的なイメージを信用し本
質を理解することができないのであろうか。
橋下氏は知事になれば収入はそれまでの10分の1になると言っていた。よくそんな事が言えるなと思
う。タレント活動を続けていたところで、元々タレントとしての秀でた才能があるわけではないのだから
その内、飽きられるのは目に見えている。知事になって4年間大過なくすごすことが出来れば数千万円の
退職金をもらえる。その上、退職後も元知事としてのタレント活動はほぼ永久に保証されたようなもので
ある。これほど美味しい話はないではないか。あまりこのような品のないことは言いたくないのである
が、橋下氏が抜け目なく大阪人らしいそろばん勘定を弾いていたと見るのは、それほど穿った見方ではな
いと思う。
大阪は宮崎のような地方都市ではないから特産品や観光施設をTVでPRして活性化するような長閑な状
況ではない。景気は末期的な回復不能の様相を示している。日本で一番、売上と利益を上げているトヨタ
の昨年度における大阪での商用車の販売数が前年度対比で60%である。能天気にTVに出演し続けて稼
いでいた橋下氏にそのようなことが実感としてわかるのであろうか。
また、私がもっとも心配するところは前回にも書いたことであるがメディアとの関係である。彼は馬鹿で
はないから自分がメディアの力によって当選し得たことをよく理解している。また、メディアに叩かれる
ことの恐ろしさも肌身に沁みるようにわかっている。橋下氏がTV的な影響力から離れることは難しいで
あろう。本物の志や信念がないがゆえに政治の世界でどのような動きをするかはたやすく予想できるよう
な気がする。要するにTV受けの良いパフォーマンスに終始する可能性が高いということだ。TVが無視
したり重視しないような目立たない弱者に対するサポートや、すぐに効果が表れなくとも将来のために必
要な地道な活動には力を入れないということである。また大勢の世論動向を気にしすぎて本当に必要な改
革への方針がぶれやすいということである。まさに出馬しないといっていながらあくる日に出馬するとい
うようなことである。そのような事は、おそらくは象徴的に何度も繰り返されることなのである。
私の橋下氏に対する評価は厳しすぎるのかも知れない。しかし、私には何かしら見えているものがあるの
である。それは何度も言うように橋下氏には本物の志や信念がありえないであろうという推察からくる、
とてもいやな予感なのである。もちろん私は馬鹿だから勝手な思い込みをしているだけであるという可能
性は十二分にある。私が共産党推薦の梅田章二氏に投票したのは候補者の中では言うまでもなく最も早く
からきちんとした計画を持って今回の選挙に備えていたからである。思想や政党に関係なくそのような候
補者が何度出馬しても落選し、TVで目立っているだけで急遽担ぎ出されるような候補者が圧倒的に勝利
してしまうような世の中は合法的であってもやはりどこか間違っているのだと思う。本当に有能で意識の
高い若者は馬鹿らしくなってますます政治離れが進んでゆくであろう。だから志が大してないにもかかわ
らず、ほぼ100%の確立で当選するような候補者には周囲の環境が押し留めるような倫理も時には必要
だと思う。はっきり言うが賞味期限の過ぎた饅頭を食べたからといってめったに死ぬ事はない。むしろ期
限が一日や二日すぎたぐらいの物を食べても平気なような丈夫な胃を持つことの方が大事だと思う。そう
いうことには社会全体がもっと寛容であってもいいのではないか。しかし志のない政治家だらけになると
まちがいなく国民の全てが不幸になる。だからそのような構造は打破しなければならないし、そのような
収益構造に執着する人たちには腐った饅頭を食べずとも、やはり地獄に堕ちてもらわなければならないの
である。
「法律よりも、幸福の方が大切だとは思わないか。
法律が幸せにしてくれるなんて本気で思っているのか。
君たちが妄信する法律の意味を考えたことはあるのか。」