特定秘密保護法案については、確かにどのような運用がされるのかわからないと言った不安がないことはないが、国民の立場から見れば、今とあまり変わらないように思える。「国民の知る権利」などと言ったところで、今、現時点においても国民は全てを知らされている訳ではない。全てどころか、知らされていることは、ほんの一部だ。外交などにおいて、多くの国民が知って都合の悪いことは、厳密に秘匿されている訳ではないが、意図的に見え難くされているか、無視されている。そしてここが肝心の所なのだが、その操作を誰がしているのかと言えば、それは政治ではなくてマスコミであるということだ。マスコミの主な情報源である官僚は、現在においてもそれなりにある種の情報についての秘匿義務が課せられているであろうし、それをたとえ、どこかの新聞記者に漏らしたからと言っても、その情報が必ず国民に知らされることにはなっていない。それが国民生活や国民の生命に多大なる影響を及ぼす情報であってもである。マスコミが、あくまで「政治的に」何を国民に知らしめ、何を知らしめるべきでないかを決定しているのである。そしてその操作が、マスコミ権力の要であるとも言えよう。マスコミはそのような大衆操作によって、権力を監視する建前と権力と同調して動く取捨選択の調整で、絶大なる社会的地位と利権を掌握してきたのである。またそれが日本の民主主義の実態であるとも言える。ところが新たな法案によって、マスコミに情報が入ってこなくなると、マスコミは国民の目から隠すべきカードを失うこととなり、それはマスコミの政治的影響力が低下することを意味する。トランプのポーカーと同じで、知っていて知らない振りをするのと、本当に知らないのでは、相手に対する内在的な力は大きく異なってくる。要するに、マスコミが一般の国民に近い地点にまで貶められることになるということである。マスコミがこぞって秘密保護法案に反対する理由はそういうことであると考えられるものである。しかし、我々国民の立場からすればどうかと言えば、カードが伏せられているという点ではどちらも同じであっても、相対的に（あくまで相対的にであるが）政治の力が、増大するということになる。民主主義的には、政治の力が増大することは、マスコミ主導で何となくコントロールされている現況よりも健全であるとも見れるのである。消費税増税はマスコミが先頭に立って旗振りの役割に徹し、秘密保護法案が大反対であるということは、どちらも国民不在であるという点において共通している。本質的にはマスコミ権力の維持でしかない。これは私の持論でもあるが、マスコミの本来の地位と役割を再確認して修正していかないことには、日本という国は決して良くはなっていかないのである。だから私は特定秘密保護法案に全面的に賛成ではないけれど、今のマスコミ論調に騙されるなと言いたい。繰り返すが、マスコミの政治権力（能力）が低下しないことには、日本は健全な国家足り得ないのである。日本の権力構造の特徴はバランス感覚によって成り立っている。鼎（かなえ）という容器を想像していただければわかり易いが、鼎立（ていりつ）という言葉もある通り、鼎は３本の脚で立っている。日本権力の３本脚とは、政治とマスコミと官僚である。３本脚で立っている容器は、その内の１本が欠けて短くなってしまうと倒れてしまうものである。だから決して倒れないように１本だけが変化するのではなく、３本の足が揃って、慎重にバランスを取って変化していかなければならない、あるいは３本ともが揺るぎなく変化しないという構造上の要請に晒されている。それが日本の権力構造なのである。よって政治主導というものは元から有り得ないものであり、政治は、マスコミや官僚と同等なのである。同等以上になろうとすると、日本がひっくり返ってしまうことになるからだ。しかし同等とは言っても、権力の寿命という観点から見れば、マスコミや官僚はほぼ終身的、恒久的に保証されているが、政治は選挙で選ばれるので、衆議院であれば４年、参議院であれば６年と極めて薄命である。よって実質的には日本の政治は、国民を代表しているにも関わらず、国民から馬鹿にされるほどに見掛けだけの存在に成り下がってしまっている。選挙の前だけ政治の力で国が変わっていくような幻想を盛んに鼓舞させて、選挙が終われば官僚とマスコミの脚の長さに合わせた政治しか出来ないということになる。しかし、いつまでもその状態ではダメだということで、秘密保護法案は相対的に政治の力を増大させて、日本という国の新たな下地を作っていくという思惑も恐らくは一つの国内要因としてあるであろうし、またそうであれば評価も出来るものである。政治が力を持つということは、長年の紆余曲折はあるにせよ最終的には国民の利益に結びつかざるを得ない方向性のものであるからだ。しかし官僚やマスコミの権力はそこで止まってしまってしまう性質のものである。とにかく今や我々国民はそういう本質的な視点で日本の現状を具に観察していかなければならない。マスコミはすぐに政治の右傾化だとか、国民の知る権利が侵害されるなどと調子のいいことを言うが、それらは結局、自分たちの利権を維持するために国民を利用しているだけである。秘密保護がどのように運用されるかは不安であるが、よって第三者の監視機関は絶対に必要であるが、マスコミ権力が低下して日本の権力構造が新たなバランスでの鼎立に向かうことは歓迎すべきである。
